2025年10月度JJC理事会開催報告:プラボウォ政権一周年を迎えて―日系企業の安全確保とビジネス環境整備への取り組み強化
2025年10月30日(木)、10月度JJC定例理事会がオンライン形式で開催され、委任状を含む38名の理事が出席した。会議には、在インドネシア日本国大使館より明珍臨時代理大使、榎下経済公使、山田領事部長が来賓として出席し、プラボウォ政権発足一周年を迎えたインドネシアの政治・経済情勢、8月のデモ対応、および日系企業を取り巻く最新のビジネス環境について詳細な報告が行われた。
冒頭、明珍臨時代理大使より、真崎大使の離任(10月5日)および市川氏の大使任命後にNSS局長就任が決定したことに伴い、当面は臨時代理大使として職務を遂行する旨が説明された。プラボウォ政権一周年については、世論調査での満足度が70%台と百日時点の80%台から下落したものの、8月末の大規模デモを受けた内閣改造が国民から一定の支持を得ていることが報告された。経済面では、5%の経済成長率、2%前後のインフレ率、GDP3%以下の財政赤字など堅調な数値が示される一方、格差問題やインフォーマルセクターの拡大が課題として指摘された。特に、国際的信用の象徴であったスリ財務大臣の解任により、金融市場では通貨・株式・債券のトリプル安が発生し、経済情勢の不透明感が増していることが懸念材料として挙げられた。外交分野では、ASEAN首脳会合での高市総理との立ち話や、今後のAPEC、G20などの国際会議予定が紹介された。文化交流事業については、9月末に約27,000人が来場したジャカルタ日本祭り2025の成功、10月25日から開催中の「染めと織の国」展覧会、および11月から9都市で開催予定のJFF(ジャパニーズフィルムフェスティバル)が報告された。
榎下経済公使からは、9月30日の着任挨拶とともに、30年ぶりのインドネシア勤務となる経緯が紹介された。プラボウォ政権の経済政策の焦点として、目玉政策である給食無償事業の予算執行遅れが課題となっていること、また質の高い仕事と十分な収入への国民の期待に応えるため、10月17日に30兆ルピアの追加経済政策(現金給付、インターンシップ支援等)が発表されたことが報告された。これらは「分配」を意識した政策であり、今後の効果と世論の反応を注視していくとの方針が示された。
山田領事部長からは、8月末から続いたデモに関する治安情勢について詳細な報告があった。大使館は連日安全対策情報をメールで発信し、8月31日には「スポット情報」を発出したが、その後デモは沈静化し、現在は危険情報レベル「1(十分注意)」に戻っている。JJC個人部会との共催により「海外法人安全対策連絡協議会」を開催し、情報共有を徹底した結果、邦人被害の報告はゼロであったことが確認された。今回の事例を「有事」と捉え、今後の危機対応体制の整備を進める方針が示された。
笠井理事長からは、重要な組織変更および活動報告が行われた。まず、髙橋調査部会長の帰任に伴い、比良井理事が新たに調査部会長および人材育成検討コミッティ委員長に選任されたことが承認された。また、11月27日開催予定の臨時総会での審議事項として、会則・定款の改定案および個人部会年会費の値下げ案(約半額、法人会員にはさらに25%割引)が理事会で承認された。活動報告としては、10月3日にJICAと共催で実施されたパティンバン港視察会の成果が報告された。同港はJICA円借款事業として整備が進行中で、民間日本企業が運営を担う初の事例として注目されている。さらに、10月20日には元警察庁長官の米田理事長(公共政策調査会)との面談が行われ、翌21日には第33回海外安全対策会議ジャカルタ・セミナーが大使館協力のもと約120名の参加を得て開催された。
法人部会からは、佐藤部会長より10月度の入会2件、退会1件が報告され、会員数は687社となった。各委員会からは、通関・関税委員会より引越し荷物通関制限(本人到着後90日以内)および新SNI規制への対応について報告があり、税関当局への陳情レター準備が進められていることが説明された。労働委員会からは、10月10日に実施された労働省労働市場センターの視察・意見交換会の成果が報告され、VISA取得手続きの順調な推移、ナショナルスタッフ退職後の転職規制・NDA締結、事業別最低賃金における「外資企業」カテゴリーへの対応について議論が行われたことが共有された。カーボンニュートラルタスクフォースからは、JICAとエネルギー鉱物資源省との間で進められている「日インドネシア水素・アンモニア連携ロードマップ」に関する議論の継続が報告された。商品グループからは、商社グループおよび電子・電機グループの活動報告が提出され、副理事長より15の業種別商品グループへの活動補助金交付と対面活動活性化への期待が表明された。
個人部会の梅木部会長からは、会員数が2,286名となったことが報告された。前月から大幅に減少しているが、これは会則第32条に基づき6か月以上の会費滞納者388名の除名手続きを行ったためである。重要事項としては、土地売却資金の一部をクラブおよびボランティア活動の活性化に充当する方向で検討が進められており、11月の理事会および臨時総会において「会則改定」「個人会費改定」に加え、クラブ・委員会補助見直しを含む予算計画案を審議予定であることが説明された。また、東部エリア拠点設置に向けて上原部会長の協力のもとワーキンググループが発足し、10月16日から11月2日にかけてジャカルタ東部在留邦人を対象としたニーズ調査アンケートが実施中であることが報告された。さらに、新組織「(仮称)じゃかるたこども会」を発足し、小中学生を対象としたイベントを開催予定であることが紹介された。
調査部会の比良井部会長からは、インドネシアのマクロ経済・投資・貿易の概況について報告があった。インフラ検討コミッティの竹田委員長からは、ジャカルタ近郊で実施中のインフラ整備事業の進捗状況が共有され、差し支えない範囲で今後も情報提供を継続していく方針が示された。人材育成検討コミッティからは、10月8日に開催されたビジネスセミナー(セラン、ブカシ、バンドンの職業訓練生産性センターと日系企業が参加、約60名)の成果が報告され、10月24日の会合では笠井理事長も参加のもと、インドネシアの雇用への貢献、労働省との協議強化、トレーナー育成事業、マガン制度の普及などについて議論が行われ、次回は2026年1月9日開催予定であることが説明された。
東部エリア部会の上原部会長(豊田通商)からは、特に注目すべき3つの活動が報告された。第一に、EJIPにて第3回工業団地政治経済セミナーを大使館・JJC共催で実施し、榎下経済公使の挨拶や花澤氏の講演の後、懇親会を通じて参加者との交流を深めたこと。第二に、8月のMM2100でのデモ発生を受けてJJC名でインドネシア警察本部にレターを提出し、その回答を受けて東部エリア部会幹部が警察本部を訪問した面談結果が詳細に報告された。警察本部からは、工業団地が「国家重要施設」として登録されており法律上デモが禁止されていること、地方警察に対して取締りの周知徹底・指導を行うことが確認された。11月・12月の最低賃金デモシーズンに向けて警察本部との連携を継続する方針が示された。第三に、工業団地入居企業向けビジネス環境アンケートの結果がJJC内で協議中であり、労務・法務・税務・通関・ビジネス環境に関する改善要望を、大使館および関連委員会と協議しながらインドネシア政府に提出する方向で調整が進められていることが説明された。
新任理事として、JBIC・公的団体グループ代表理事の深谷氏が紹介された。深谷氏は2000年以来2度目のジャカルタ勤務となり、前回は電力案件を中心に担当されていたが、その後ロシア、中央アジア、アフリカといった地域の案件を担当されてきた経緯が紹介された。
本理事会では、プラボウォ政権一周年を迎えたインドネシアの政治・経済情勢を踏まえつつ、8月のデモ対応での成果、パティンバン港視察や海外安全対策会議などの具体的活動、東部エリア部会による警察本部との対話など、多岐にわたる分野でJJCと大使館が緊密に連携して取り組んでいることが確認された。特に、治安対策での情報共有体制の強化、工業団地でのデモ対策の法的枠組みの確認、ビジネス環境改善に向けた政府へのアプローチ準備など、在留邦人と日系企業の安全・発展を支える具体的な成果が報告された。また、調査部会長の交代、臨時総会での会則改定・会費改定の準備、個人部会の東部エリア拠点設置検討など、組織運営の強化に向けた取り組みも着実に進められている。JJCは今後も、変化するインドネシアの情勢に機敏に対応しながら、会員企業・会員個人の支援活動を継続していく。
次回理事会は11月27日(木)8時30分より開催予定で、その後引き続き臨時総会が開催される。終了予定時刻は10時頃となる。
※議事の詳細については、会員向けに共有された議事要旨をご確認ください。
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